稲垣えみ子さんの「寂しい生活」を読んで考えたこと
稲垣えみ子さんの「寂しい生活」を読みました。この本は、都会の片隅で繰り広げられた、現代の冒険の物語。
原発事故を機にはじめた「節電」生活によって、掃除機、電子レンジなどの電化製品のプラグをひとつずつ抜いていき、エアコンや暖房器具、そしてついに、なんと冷蔵庫まで手放していくという。その過程でおこったさまざまな葛藤や失敗、発見、そしてその先でたどり着いた、めんどくさくて素晴らしい世界。
本の表紙にも書かれてあるように、「もしや、これが『今を生きる』ということではないだろうか」と感じました。
エアコンや冷蔵庫まで断捨離?!
えっ?! エアコン? 冷蔵庫まで断捨離? ・・・稲垣さん、さすがにそれは行き過ぎでは?
本を読んでみるまでそう感じていたのですが、行き過ぎたミニマリストのお話などでは、もちろんないのです。
電化製品やプラグは、現代社会を象徴するメタファーなのかもしれないなと感じました。
メタファー(英: metaphor)は、隠喩(いんゆ)、暗喩(あんゆ)ともいい、伝統的には修辞技法のひとつとされ、比喩の一種でありながら、比喩であることを明示する形式ではないものを指す。
電気のプラグをひとつ抜き去っていくごとに、軽やかに自由になり、新しい能力(というより生き物がもともと持っていた能力?)が目を覚まし、生き物としての感覚のするどさや本能・野生を取り戻していくような。
冒険って、どこか遠くのジャングルに行かなくても、自分の部屋で、この身ひとつでできるものなんだ。ワクワクドキドキしながら一気読みして、すぐまたじっくりと読み返し、ミニマリスト夫にも「ぜひ読んでみて!」と薦めてしまいました。
夫も面白がって読んでいます。稲垣さんは、冷蔵庫をやめたことで、なんと、時空を超えたりするのですから^^
もっと使わせろ、捨てさせろ、無駄使いさせろ
電通戦略十訓
- もっと使わせろ
- 捨てさせろ
- 無駄使いさせろ
- 季節を忘れさせろ
- 贈り物をさせろ
- 組み合わせで買わせろ
- きっかけを投じろ
- 流行遅れにさせろ
- 気安く買わせろ
- 混乱をつくり出せ
この本の中で私が衝撃(というよりショックですが)を受けたのが、本の中で紹介されていた「電通戦略十訓」でした。これは、脚本家の倉本聰さんとの対談で教えていただいたものだそうです。
人を人として見ていない。大衆にいかに洗脳して多くのお金を使わせるか。怖いことだなあと感じずにはいられません。
この「電通戦略十訓」がつくられたのは1970年代だそうですから、まさに高度成長期の真っ只中。私が生まれたのは1973年で、実家の洗濯機が二層式から全自動に変わったことや、電子レンジが初めて届いた日のことを覚えています。
人が生きていくのに必要なものなんて、本当はそんなに多くない。でもそれでは、みんなが必要なものを手に入れてしまったらものが売れなくなってしまう。それでは困る。だからこそ、人々に「まだまだ足りない」と際限なく思わせ続けなければならない。
つまりは欲をどこまでも拡大させる。それこそが経済を活性化させる重要な鍵なのだという事実を、これほどまでにわかりやすく表現したものがあるでしょうか。
20代の頃は紙媒体の制作業務に携わっており、「どうしたらお客様の欲望を刺激できるか?財布の紐を緩めてもらえるか?欲しいと思ってもらえるか?」マーケティングとはそういうものだと教えてもらいました。もちろんここまで露骨ではなかったですけどね。
便利なものに囲まれた暮らしは、チューブでつながれた重病人のようなものかもしれない
電化製品のプラグを一つ一つ抜いていくことで起こった変化や感情。まだそちら側の世界に行ったことのない私にも、まるでその世界が想像できるようでした。
便利なものに囲まれていた私の暮らしは、いわば、必要な栄養や薬を補給してくれるたくさんのチューブにつながれた重病人のようなものだったのではないか。
チューブにつながれている限りは生命を永らえることができる。安心である。その代わり、ベッドから片時も離れることはできない。
私がやってきたことは、このチューブを一つ一つ抜いていく作業であった。まさに決死の覚悟で。でも、思い切ってやってのけたのだ。そして何が起きたか。
私はベッドから起き上がり、自由に歩き回れるようになったのである。
そう、「自由」。
便利ってなんだろう? 自由ってなんだろう? 考えると思考がぼやっとしてくるのだけれど、その先までもう一歩、思考を進めてみることが大事なのかもしれない。でももっと大事なのは、それを実際にやってみることなのだろうけれど。
実際に経験してみることと、私がただこうして想像して感想を書いていることの間には、とても大きな差があるのだと思います。
自分はすでに「足りていた」
自分はすでに「足りている」。今もうすでに十分すぎるほどのものを持っている。もしかしたら、そのことを信じることから、はじまるのかもしれないな、と思います。
そして、目の前にあるものを無自覚に受け入れるのはなく、自分の頭で考えてみることも大事なことだと思うのです。
さいごに
この本を読んで、ふと、映画「マトリックス」で頭に繋がれたプラグを抜くシーンが浮かびました。
人々はプラグに繋がれた電池となり、横たわったまま「仮想現実」の世界で夢を見るように生きている。プラグを抜いて仮想現実から抜け出して、本当の自分で生きるという決意をするんです。
ちなみに、映画「マトリックス」の最後に流れるエンディング曲のタイトルって、Wake up(目を覚ませ)。ちょっとゾクゾクッとしてしまいました。
とはいえ、どんどん進化していくテクノロジーの変化にはワクワクするし、今朝のニュースでちらっと紹介されていた「空飛ぶ自動車」にもすごく興味があるんですけどね。
電化製品の便利さは手放せそうにないけれど、不便をもっと楽しみたいなと思いました。